AI検索時代に最適化された新世代の動画戦略
AIO動画(AI Optimize)の戦略と思想
菊本英之
― ゼロクリック時代を生き抜くための企業戦略 ―
序章:なぜこのレポートを書くのか
本レポートは、これから始まるAI検索時代の根本思想を理解し、
企業がどのように対応すべきかを明らかにするためのものです。
初心者の方にもわかりやすく専門用語を避けていますが、一部に専門的な用語も含まれます。
AI検索による「ゼロクリック現象(この後で詳細説明)」は、
昨年から今年にかけてアメリカの一部業界で話題となり、徐々に日本でも知られるようになってきました。
しかしながら、その本質的な意味や企業が取るべき戦略はまだ十分に理解されていません。
私はGOOGLE動画広告認定プロフェッショナルとして日々研究を重ねる中で、
AIO(AI Optimize)という概念がこれからのマーケティングにおいて極めて重要になると確信していますし、
実際これが当たり前になると断言いたします。
そしてSEO(検索エンジン最適化)の時代が終わりを告げ、
AIによる「回答提示型検索」への転換が進む中で、
来年半ばから再来年にかけて企業の情報発信は根底から見直されることになるでしょう。
第1章:AI検索がもたらすゼロクリックの衝撃
1-1. ゼロクリックとは何か
私たちは長い間、「検索する」という行為を当たり前のように行ってきました。
知りたいことがあればGoogleに問いかけ、無数のリンクの中から自分に合う答えを探す。
それは、2000年以降の、人が世界とつながるための最も基本的な行動のひとつとなりました。
しかし今、その当たり前の文化が、その文化を築き上げたGOOGLEの英断により、
静かに、かつ想像を絶する勢いで終わりを迎えようとしています。
それはGoogle検索に本格導入された「AI Overviews(AIO)」と「AIモード」です。
「AI Overviews(AIO)」とは、ユーザーがGOOGLE検索で質問を投げると、
信用ある複数のWebサイトから情報を要約し、直接“答え”を提示してくれる機能です。
その結果、多くのユーザーはAIによる要約回答で満足してしまい、
その下の数多ある検索リンクをクリックしなくなりました。
これが「ゼロクリック検索」と呼ばれる現象です。
1-2. データで見るゼロクリックの衝撃
海外の信頼ある調査機関によると、
2024年から2025年にかけてGoogle全検索の約6割がクリックを伴わずに終了しているそうです。
またモバイル端末では小さな画面で色々スクロールするより、AIによる回答が素早くて楽な為、
今後その割合は、75%を超えるとの報告もあります。
これは検索結果をAIの回答で満足し
「ユーザーが情報を得るために御社のWebサイトへ、わざわざ訪問する必要がなくなった」ことを意味します。
もはや従来のSEOモデルは何の意味もなさなくなったことを示唆しています。
そして逆にAIに引用された企業のサイトは滞在時間が以前より増えているとの報告もあります。
この変化の衝撃を、あなたはどれほど実感しているでしょうか?
今実感していなくとも、訳が分からなくても、企業担当者なら
今すぐにでも対応すべきかと思います。
なぜなら、再来年ぐらいには、もうほとんどの人が、
御社の検索リンクをクリックしなくなると私は予想します。
それほどまでにAIOは便利であり、「正義」だからです。
では、この時代に、企業は何を語り、どう価値を伝えていけばいいのでしょうか。
第2章:デジタルデブリとWebマーケティングに起きている“大革命”
2-1. SEOが生んだ“低品質コンテンツとデジタルデブリ”
AI検索という革新を語るとき、まず私たちは「SEOの時代」を振り返らねばなりません。
かつてSEOは、インターネットの主役でした。
どの企業も「検索上位に上がる」ことを最優先し、
企業はSEO会社に依頼し、SEO会社はクラウドソーシングで安価なライターに依頼し、
大量のキーワードを埋め込んだ、非常に質の悪い記事を量産しました。
そんなゴミのような記事が溢れたおかげで、ユーザーは、本当に欲しい情報を探す為に
意味のないサイトを延々とスクロールし、それでも情報が見つからず、
血眼で検索の3ページ目まで調べたりしていた訳です。
SEO会社はそんな記事をコンテンツと呼んでいましたが、
真のコンテンツを作り続けてきた私からすれば
ただのデジタル上のゴミ同然でした。
実際そのような価値のないコンテンツは、デジタルデブリと呼ばれ、
まるで宇宙空間に漂うスペースデブリのように、
不要なデータの“デジタル廃墟”を形成していたのです。
そんなものに本当の“価値”はなかったのです。
2-2. 低品質コンテンツの生産農場“コンテンツファームとGOOGLEの強い警告”
コンテンツファームと呼ばれたSEO会社はクライアントから注文を受けると
安価なライターに大量発注し、他サイトの情報を寄せ集めた“寄せ木細工”のような記事を量産。
それはもはや、知の構築やコンテンツと呼べるものではなく、
情報の再利用による模倣に過ぎませんでした。
そんな状況に、痺れを切らしたのがGoogleでした。
GOOGLEはその行き過ぎを止めるため、
2024年のコアアップデートで
「質の低いコンテンツを40%削減する」と発表したのです。
このGOOGLEの利便性と信頼性”の両立を実現しているための正義と、AI検索の導入により、
我々は、ようやく「いつまで経っても欲しい情報が見つからない」状態から
ようやく解放される時が来たのです。
2-3. 企業担当者の苦悩“何をどうすべきなのか?”
いかに高額な予算を投じて検索上位に表示させても、
AI Overviewsに選ばれなければユーザーの目には触れない。
つまり「AIに選ばれるか否か」が、これからの競争軸になるのです。
ではAIに選ばれるにはどうすれば良いのか?
これが今世界中の企業担当者の頭を悩ませている問題です。
はっきり言えば、「みんな何をどうすれば良いのか分からない」状態に
なっています。
一つ断言できることは、AIに選ばれる為の基本的な思想【AIO戦略】を知る事、
つまりGOOGLEの根底に流れる哲学を理解することだと言えます。
第3章:AIO(AI Optimize)の思想と戦略
3-1. AIOとは何か
AIO(AI Optimize)とは、
AIが理解しやすく、かつ信頼できる情報構造を持つコンテンツを設計し、
AI Overviewsや生成エンジンに選ばれやすくするための戦略的最適化です。
SEOが“キーワード”の時代であったのに対し、
AIOは“意味と文脈”の時代です。
AIはもはや単語の出現頻度ではなく、
情報の整合性・専門性・信頼性を評価しています。
3-2. AIOの本質:「思想準拠型最適化」
AIOにおいて最も重要なのは、「ハック」ではなく「思想準拠」。
Googleが公式に掲げる設計思想――
E-E-A-T(Experience・Expertise・Authoritativeness・Trustworthiness)に準拠し、
発信者が“信頼に足るエンティティ(実体)”であることをAIに理解させることです。
つまりAIOとは、
「ユーザーへの価値提供という本質への回帰」そのものなのです。
第4章:実証事例 ― 日産プリンス奈良販売の挑戦
4-1. プロジェクト概要
クライアントである「日産プリンス奈良販売」様から、
県内初のV2H体験館「エネクルハウス」をテーマにした認知拡大の相談を受けました。
V2Hとは「Vehicle to Home」の略で、
電気自動車(EV)に蓄えた電力を家庭に供給するシステムです。
停電時の非常用電源としても活用でき、電気代削減や補助金利用にも繋がります。
4-2. 動画広告の設計
通常の私が手掛けるPR動画では、YouTube広告による認知拡大を目的とし、
スキップ可能なインストリーム広告(2〜5分)を制作します。
毎回視聴率50%超、完了率30〜50%という高い成果を上げていました。
しかし今回はそれに加え、AI検索上位に“自然露出”させるため、
AIO(AI Optimize)設計を導入しました。
第5章:AIO動画の構造と成果
5-1. マルチモーダル側の識別容易性
詳細なAIOの方法は企業秘密なのでお伝え出来ませんが、
1つ大事な事を申しますと、AIOにおいて重要なのは
マルチモーダル側の識別容易性だという事です。
AIが動画を正確に理解できるよう、
音声(ナレーション)・テロップ(テキスト)・映像(視覚要素)の三要素を
一貫性ある意味構造で設計する必要があります。
これにより、AIが動画の本質を迷いなく認識できる「識別容易性」を実現。
この手法こそが、AIO時代における本質的最適化の鍵です。
※マルチモーダル側の識別容易性とは私の造語です。
5-2. 成果:AIが選んだ動画
結果、Google検索において「奈良 電気自動車 体験」と入れると
AI Overviewにおいて
「奈良で電気自動車の体験ができるのは、V2H体験館【エネクルハウス奈良】です」
と最上位に表示されました。(添付スクリーンショットの左側)
さらに、検索結果の強調スニペット(添付スクリーンショットの右側・下のピンクの文字のサムネイルが動画)」にも掲載。
これはAIと従来検索の双方で“質の高い情報”と認められた証拠です。
第6章:結果分析と意味
「普段からその企業のサイトを見ているから、パーソナライズされた結果では?」
という疑問が浮かぶかもしれません。
実際この検索を行った私は複数の自動車ディーラーをクライアントに抱え、様々なサイトを日常的に閲覧しており、
Googleのパーソナライズ上では「奈良県の自動車ディーラーに強い関心を持つ見込み客」としてシミュレートされているはずです。
マーケティングファネルにおいては、最も重要とされるBOFU層「購買の最終段階」にいる見込み客になります。
だからこそ非常に価値のある結果と言えます。
その状況下でAIが私に対して「最終的な答え」として、普段見ている他のディーラーでなく、
日産プリンス奈良販売を提示したことは、
AIO動画が「競合が多い市場の中で現実的に“勝利した”」ことを示す実証的なデータとなるのです。
第7章:AIO動画の優位性 ― なぜAIは動画を選ぶのか
AIがテキストではなく動画から情報を引用した理由は明確です。
動画には、製品の質感・人の表情・専門家の信頼感・体験のリアリティなど、
テキストの何千倍ものリッチな情報が含まれています。
AIはそれを総合的に判断し、
「最もユーザー満足度が高い情報」として引用したのです。
さらに、単なる情報伝達だけでなく、
放送作家として培った「物語構成力」と
Google広告プロフェッショナルとしてのデジタル知見が融合することで、
AIと人間の双方に理解・共感される構成を実現しました。
第8章:AIと人間の共鳴
「AIに選ばれる」と書くと、
何か得体のしれない冷たいアルゴリズムの中に
落とし込まれるのではないと、不安に感じる人が
いるかも知れません。
しかしそうではありません。AIは人間の生活を便利にするために、
つまり、寄り添うように学習し、設計されています。
AIが選ぶのは、数値的に最適な情報ではなく、
最も“信頼できる声”です。
AIOとは、AIを技術的に騙す技術ではなく、
AIと誠実に向き合う態度のことだとも言えます。
AIOは、あのゴミのようなコンテンツ記事が溢れた時代を終わらせ、
我々に、厳選された誠実な情報を一瞬で届けてくれるようになりました。
動画という表現手段はその最も豊かな器となるはずです。
終章:AIに選ばれる企業思想が未来を導く
【我々の仕事】
AIが検索の主導権を握った今、
企業に求められるのは「思想」と「一貫性」だと言えます。
AIに選ばれる企業とは、
自社の専門知識を誠実に言語化し、
その価値を体験として届ける企業ではないでしょうか。
私たちの仕事は、
その企業の中に眠る“答え”を掘り起こし、
それをAIと人間がともに理解できる物語に再構成することです。
AIO動画とは、
言わば企業の知を“未来の答え”へと昇華させる戦略的な表現とも言えます。
【思想が未来を導く】
AIが世界の情報を要約し、人間がそれを受け取る時代。
情報の量ではなく、「思想の深さ」が問われています。
私はこう信じています。
「最も強いテクノロジーとは、思想である。」
それは、AIと人間が互いの理解を深め合うプロセスそのものとも言えます。
これからの時代、動画は単なる広告ではなく、
企業の哲学を可視化するための装置になるでしょう。
逆に哲学・理念・情報を物語として可視化できない企業は
検索の闇の中に埋もれて行くかも知れません。
人間が物語を生み、AIがその物語を知として選び、人間がその知を更にAIで磨いていく。
その共鳴のループ中に、次の時代のコミュニケーションがあると私は信じています。
